らびっと店主の「ひとりごと」その1


 最近、学生服(セーラー服等)について、細かいサイズ指定をかけたオーダーについての問い合わせをいただくことがあります。既製品ではサイズが合わないから特注を…をというお客様のご希望を全て否定するわけではありませんが、「ちょっと引っかかるなぁ〜」と感じるケースがたまにあります。

 Wonder Rabbitで扱っているセーラー服のサイズ表をご覧いただければお分かりいただけると思いますが、もともと、学生服のサイズバリエーションはかなり豊富です。少なくても「横幅」については、既に十分すぎるほど細かくサポートされているのではないかと思えます。でも、ここからさらに、×cm小さくして欲しい、この部分だけ×cm大きくできないかといった、(1〜2cm単位での)細かい問い合わせがあるんですね。
 「一番大きいサイズでもさらに横幅が足りない」ということなら、理解できます。また、横幅にあわせたとき、そのサイズでは「背が高い(低い)から着丈が短い(長い)」「腕が長いから(低い)袖丈が短い(長い)」といったケースがあるのも理解できます。袖丈調整とか着丈調整というのは、(学校制服の現場でも)それなりに耳にする話なんですね。しかし、横幅については十分に細かいサイズ展開が用意されていると、私には思えるのです。たとえば、180Aと175Bを比べると、着丈の差以外は、ほとんど変わらないですよね。なので、「180A程度の着丈が欲しいが、175Bの横幅が理想」という場合、180Aで妥協いただければ、おおむねご希望通りになるのに、なぜか、「175Bを着丈特注したい」「出来ないなら180Aの横幅を1〜2cm大きくして(175Bに近づけて)欲しい」という感じに、こだわる方がおられます。もしかすると、せっかく注文するならば、自分専用に完全カスタマイズした世界でたった1つの衣装が欲しい、といった心理なのかも知れません…。
しかし、衣装を販売する側の人間から見ると、細かすぎるサイズオーダーというのは、色々な意味で「現実的ではない」んですよね。注文される方は、本当に衣装のことをよく分かっての上での細部指定なのなのだろうか。学校制服現場でさえ、そういった1cm単位でのオーダーまでは実際には対応していないことがほとんどなのに…といった違和感を感じてしまうのです。

 そもそも、人間の体型なんて、ちょっと食べ過ぎたら太ったり、逆に運動をしたり病気をしたりで痩せたり、日常の中で数センチ程度の横幅の違いなんて、けっこう生じるものです。また、衣類は「着るもの」ですから、着用して気をつけの姿勢をとったときに見事にピッタリのサイズだったとしたら、手を上げたり体をひねったりという身動きが取れなくなってしまいます。そのために、一般的にはどんな衣類であっても「ゆるみ」(遊び)というのは考慮されています。だから、横幅(胸囲とか)が1〜2cm違う程度で見栄えや着心地が極端に変わるとかはあまりないですし、その1〜2cmにまでこだわって完全なオーダーじゃないと嫌というのは、こだわりの方向性が特殊だといわざるを得ません。  既製品にこれだけ細かいサイズ展開があるのだから、横幅がその下限と上限の範囲の中に納まっている人であれば、少なくても横幅については、このサイズ表の中から選べば「おおむね最適」なものはセレクトできるし、それが一番良いと、私は考えます。もう少し丁寧に言えば、横幅優先でセレクトしたサイズで、もし袖丈や着丈に極端に過不足が出てしまった場合は、そこだけイージーオーダーで調整すれば、十分に「実用に足りる」ということですね。
 なまじ、学生でない方が、自分のために不要不急の衣装を手に入れるという話だから、フルオーダーに対する「憧れ」みたいなものも出てくるのかも知れません。でも、(この際ぶっちゃけさせていただきますが)本当の意味でのフルオーダーなんて、実は、そんなにやっているメーカー、ないと思いますよ。うち(Wonder Rabbit)は(学生服に限らず)もともと「1点のものフルオーダー」は(原則として)受けていないですが、多分、ほとんどの類似ショップも(完全な)フルオーダーは受けていないことが多いと予想します。もちろん、(メイド服等で)フルオーダーをやっているショップも少数知っていますが、そういうところはそれなりに「高い」です。高くて当たり前です。完全なフルオーダーというのは、型紙から全部作るわけですから、手間がかかりすぎるのです。
 既製品の標準型学生服が安定した価格で流通しているのは、同じ形の型紙で量産しているからです。型紙を新しく作るというのは、けっこう手間がかかる(=人件費がかかる、つまりお金がかかる)作業です。普通に考えて、(既製品を量産している大手の)学生服メーカーが、たった1人の、しかも学校用でない特注のために、型紙を1枚だけ作ってフルオーダーの衣装を製作するなんて、そんなことをするのかなぁ、と、そこは疑問に感じたりします。既成品に近似サイズがあるのにも関わらず、そこから更に1〜2cm程度変更をして欲しいといった問い合わせだと、メーカーに聞いてみても大抵は「できません」という(冷たい)返事が返ってきます。これは、「物理的に不可能」というよりは、むしろ「実用的にはほとんど意味のない微細すぎる変更で、そんな細かすぎる話には付き合っていられない」といった意味のNoではないかと推測します。学生服というのは、そもそも、一人づつのサイズに完全に合わせた個別オーダーをする品ではないのです。
 よく、新入学の生徒に対して、学生服屋さんが学校の体育館とかにきて「採寸会」みたいなのをやりますよね。私も学生の頃は、お世話になりました。その頃は、「あぁ、こんなに細かく図って、私専用の制服を作ってくれるのね〜」とか、浅はかにも思い込んでいましたが、今考えると、あれは、採寸して一人一人に「完全なオリジナル」を作っているのではなくて、採寸結果を元にメーカー既成サイズの中で一番その人にフィットするであろう品をセレクトして、納品しているだけなのです。だって、たとえば300人いたとして、300枚の別々の型紙を作って1点づつ全く別のサイズを作りますか? 大変過ぎますよね。 学校の頃、制服には「A6」だとか「160A」だとか、そのメーカーによって表記はまちまちですが、なんか服にサイズ記号のようなものがついていませんでしたか? 冷静に考えれば、既製品で済む人は既製品(の中から一番近いサイズ)をあてがわれていただけなんですね。で、既製品の範疇でおさまらない人は、袖や着丈で調整してイージーオーダー。もともと、学生服の横幅のサイズ展開は豊富だから、それでだいたいは「最適」な形に持っていけた。それでも収まらない…となると、それは大変に少数派になってきますが、そういった規格外の人だけ、やむなく「例外的に特別」に作ると。
 そもそも、学生服というのは成長期の学生が着るもので、入学時と卒業時では体型が変わることが容易に予想できます。最初に個別採寸した寸法に合わせて1〜2cmにもこだわって「ピッタリサイズ」になるような特注などしない。それが、学生服の定石というか、学生服メーカーから見た「正しいありかた」なのだと思います。

 これを書いていて思い出したのですが、昔、U2タイプと同じ業者が「サイズオーダーが出来る」とおっしゃるので、U1だったかなぁ、オーダーバニーも扱っていたことがあったのですよ。でも、実際にモニターモデル用にオーダーをしてみたら、サイズの違う複数の娘用に作った品が、ほぼ同寸で出来上がってきたということがあったのです。そのときは、「えっ、これでいいのかなぁ?」とかひっかかりつつ、嘘もつけないので、その通りに実情をレポートして、商品の詳細説明ページを作りました。(結果として、サイズオーダーバニーは、早々に取扱いを休止することになったわけですが…。)
 その件も、今なら、なんとなくからくりがピンときます。サイズオーダーというと、まるで、着用者の寸法に合わせて、わさわざ微細に作っている印象がありますが、型紙から新規に作るのは、大変な手間となります。よって、既成の手持ちの型紙(7号、9号、11号みたいな)のうちで一番近いものを流用し、大差がないならば、そのまま製作。もし、目だって数字が異なるところがあれば、そこの部分だけ目分量で(生地の裁断のときに)調整して対応していたのではないでしょうか(これは、あくでも私の推測に過ぎませんが…)。
 もちろん、個人が趣味の延長で(=採算度外視で)丁寧に1着づつ作っているようなコスプレショップの中には、本当に1点づつフルオーダーをしているところもあるかも知れません。でも、商売として(利益を出すことを目的として)やっているショップで、個別のフルオーダーにとことん付き合っていたら、多分、最低でも1着5万、下手すると10万ぐらい取らないと採算が合わないと思うのです(型紙を新しく1枚作るのに、パタンナーに頼めば、普通は数万円かかります)。それほど馬鹿高くない金額で「サイズオーダーをします」と銘打っていた場合は、それは「フルオーダー」(全てその人の希望サイズに基づいてオリジナルに作る)という意味ではなくて、既製品をベースに、その人の体型に合いそうな方向にイージーオーダー的な手直しを入れて、既製品とは少し異なるものを特別に作る、という意味合いではないかと予想します。
 よく、特注を受け付けるショップで、「特注の方は、こちらにサイズをご記入ください。バスト×cm、ウエスト×cm…」というようなフォームを用意していますね。実店舗がある店の場合、店員さんが丁寧にメジャーであちこちのサイズを測ってくれて、特注シートみたいなものに記入していたりします。そういうのって、なんだか、自分専用の「完全にカスタマイズしたフルオーダーの特注品」が出来てくるような気分になってきます。でも、本当にそうでしょうか。それは、もちろんその人のために特注したサイズオーダー品であることは間違いないのですが、実質は「イージーオーダー」の可能性が高いような気もします…。